井の頭池だよりR6 12月

2024年12月19日(木) 2024年カイツブリの繁殖状況


井の頭池では、2019年度まで3回のかいぼりによって肉食性の外来魚を根絶し、それらに捕食されなくなった在来の水生生物が回復しました。そして、魚食性のカワセミやサギなどがよく観察されるようになり、カイツブリやカワウが繁殖するようになりました。特にカイツブリは10つがい前後が見られ、今や、井の頭池は都内随一の繁殖地になりました。
2024年、カイツブリの繁殖はどうだったのかをふり返ります。
図.カイツブリの繁殖数の推移
※2003~2015年は井の頭かんさつ会 田中利秋氏の調査による(出典:よみがえる!井の頭池!かいぼり報告会資料集「かいぼりで変わった水鳥の暮らし」ほか) ※独り立ち数は、ふ化から1ヶ月後に生存していたヒナの数とした。

今年は、井の頭池で繁殖期に確認した10つがいのうち8つがいが産卵し、そのうちの6つがいでヒナが誕生しました。全体では28羽がふ化し、20羽が独り立ちしたと思われます。
お茶の水池の沈水植物上に営巣したカイツブリ (2024年6月)

6月の池だよりでお知らせしたように、この春は抱卵開始がいつもより遅い4月末でした。また、一般的に繁殖のピークを迎える6月に、抱卵するつがいが途絶えた期間がありました。カイツブリの繁殖がうまくいかない要因がいくつかあったのかもしれません。
繁殖の成功には、つがいの相性や繁殖活動の習熟度が影響している可能性もありますが、井の頭池にはカイツブリが10つがいもいるので、個々のつがいの状況だけでは説明できない要因があると考えるのが自然です。一般的に野生生物の繁殖の成功にかかわる大きな要因としては、食物量(=個体の栄養状態、ヒナ数)、営巣環境の充実などが考えられます。まずは食物量に注目してみましょう。
井の頭池では、井の頭かいぼり隊が水生生物モニタリングを行っており、毎年4月から11月まで月1回、定置網(張網)8基を仕掛けて捕れた生物の種や個体数を記録しています。
 
図.外来水生生物の張網によるCPUE
 
図.在来水生生物の張網によるCPUE
※CPUE(Catch Per Unit Effort/1ワナ当たりの捕獲量) = 総採捕数 ÷ 総ワナ数

かいぼり後、肉食性の外来魚(オオクチバスやブルーギルなど)がいなくなった井の頭池では、スジエビ、テナガエビ、ギンブナ、モツゴなどの在来種が回復しました。それぞれの種の個体数は、気象条件や種間関係などさまざまな要因で変動するので、1年分の結果だけを見て判断するものではありません。しかしながら、かいぼり29から7年経ち、沈水植物が豊富で水生生物が豊富にいた2020年度、2021年度と比べると、カイツブリの繁殖期である5~6月については、在来水生生物は退潮傾向にあるようです。5月、6月のモニタリング結果を見ると、今年はCPUEが低めで、2018年、2019年と同程度でした。

カイツブリのふ化数や独り立ち数を見ると、2023年、2024年は2018年と同様の水準のように思われます。繁殖期の水生生物の減少は、カイツブリの産卵数やふ化率にも影響があるのかもしれません。また、親鳥はヒナが小さい時は稚エビや稚魚など小さいものを与え、ヒナが成長するにつれて大きなサイズの獲物を与えます。さまざまなサイズの生きものが生息していることも、ヒナの成長には重要なことなのです。
カイツブリの繁殖は水生生物の動向とリンクするのか、今後も注目していきます。

エビ類をヒナに給餌するカイツブリ (2024年11月)
 
カイツブリの子育てがうまくいくかどうかは、他の要因もあるかもしれません。営巣環境についても考えてみましょう。カイツブリは本来、ヒメガマやヨシなどの抽水植物の茂みや沈水植物の上に浮巣を作ります。
かいぼりをきっかけに、お茶の水池や弁天池には抽水植物の生育できる浅場が整備されましたが、ボート池にはヨシやヒメガマなどの抽水植物が広がっている場所がなく、池に垂れ下がる枝や、水面の沈水植物上に営巣しています。
枝に作った巣は水位変動などで壊れやすく、営巣放棄につながります。また、ボートが行き交う中では安心して抱卵し続けることが難しいという課題があります。
沈水植物を維持し、生育範囲が拡がるように取り組むとともに、カイツブリの繁殖とボート利用を両立できる方法を引き続き検討してまいります。
もしボート池でカイツブリの巣を見かけたら、近づかないようご協力をお願いいたします。
ボート乗り場近くで抱卵するカイツブリ

目印の棒が立てられており、ボート場の係員から利用者に、巣に近づかないよう注意喚起がありました (2024年8月)


カイツブリたちは冬から春にかけてつがいが形成され、春になるとまた繁殖シーズンを迎えます。年によっては2,3月頃から営巣を始めることもありますので、ケレレレ!と鳴き合っているつがいを見つけたら、温かく見守ってください。

 

お問い合わせ

建設局西部公園緑地事務所 工事課 0422-47-0364
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