つかれた心を凪ぐ水面の静けさ。船の上だけに流れる至福の時間
和船との出会い
和船は日本に古くから伝わる木造船で、櫓を漕いで進みます。今の若い人はなかなかこのような船に乗る機会がないかもしれませんね。しかし和船は、乗る人の心をゆったりと癒す素晴らしい乗り物です。私たち「和船友の会」はその魅力をより多くの人たちに伝え、櫓漕技術の伝承をしていきたいと考えています。
実は私が和船と出会ったのも、この「和船友の会」がきっかけでした。今から十年以上前、親水公園の辺りを歩いている時におじいさんたちが船を漕いでいるのを見かけ、その様子を何の気なしに眺めていると、「練習してみるかい?」と彼らの一人が声をかけてくれたのです。まさにそれが「和船友の会」創設メンバーの方たちだったのですね。彼らの大半は昭和一桁生まれです。かつて船で荷物を運んでいた人もいるし、海苔の養殖をしていた人もいます。とにかく若い頃に船に乗り親しんでいた人たちです。
友の会に入会し、彼らに船漕ぎを教えてもらうたび、これはすごいものに出会ったなと感じました。こんなに面白いものはないぞ、と。エンジンの音もなく、静けさの中で水面を渡る風を感じる。その心地良さは何ものにも代えがたいのです。
船を楽しむことが伝承に繋がる
「和船友の会」は、平成五年に江東区木場に親水公園が作られたことをきっかけに発足されました。親水公園の辺りの川は、戦前まで船でいろいろな荷物や人を運んだりするために日常的に使われていたのです。現在の道路のような役割を果たしていたのですね。その公園を作るにあたり、昔の川や水辺の情緒的な光景を再現しようということで、江東区が船を二艘建造することになりました。当初は公園で展示公開するだけの予定だったのですが、せっかくこんなに立派な船を造ったのだから、実際に動かすことはできないだろうかという話になった。そこで「こうとう区報」で和船を漕げる人を募集したところ、約十数名が集まりました。その船頭らによって作られたのが「和船友の会」なのです。
現在私たちは毎週一回、横十間川親水公園にて操船しています。3月から11月までは毎週水曜、12月から2月までは毎週日曜。東京にお住まいの方はもちろん、日本全国、また海外からの観光客などいろいろな方が参加してくださいます。私たち船頭は、お客さんに船の時間を楽しんでいただくとともに、和船、そして川にまつわる歴史についてお話をしてさしあげます。
「小名木川に架かるクローバー橋のたもとには、古地図で見ると土佐藩があった。その辺りにジョン万次郎が住んでいて、ひょっとしたら坂本龍馬が会いに来たかもしれないという説がある」
そんなお話をすると皆さんとても喜んでくださるんですね。中には唄をうたったり、小話をする船頭もいます。面白いでしょう。私たちはできるだけお客さんとの対話、コミュニケーションを楽しみながら船を漕ぎたいと思っているのです。
実際に船に乗られた方は皆、楽しかった、素晴らしかったとおっしゃいます。乗船することで船と川の魅力を知り、自分も漕いでみたいと思ってくれたらこんなに喜ばしいことはありません。昨年、江東区のある小学校に頼まれて四年生の子どもたちに和船についてのお話をしたのですが、みんな船に興味を持って、実際に乗りにきてくれました。そして「僕も船を漕いでみたい!」と言ってくれる。嬉しいですね。櫓漕ぎの技術の伝承、それが私たち和船友の会のいちばんの目的ですから。
そしてぜひ皆さんに見ていただきたいのが、日本の船の様式美です。和船はシルエットが非常に美しく、装飾にもこだわっています。今ある船のほとんどが銅で飾りを施されているのですが、銅は錆びてくると緑色になり、これが実に鮮やかなのです。ある説によると和船はかつての紀州で発展し、それが江戸の方に入ってきた。江戸は将軍のいるところだったので、粋を出すために銅で飾りつけたということなのです。船体の横にポンポンと小さな丸型の銅が配されていますが、機能的にはそれほど意味がありません。いかに江戸時代の職人が装飾にこだわったのかがわかりますよね。
櫓漕ぎの技、船の様式、そして歴史。そのすべてを文化遺産として守り、伝え続けていきたいと思っているのです。
季節を感じ、至福の時を過ごす
今、私たちの会には70名ほどの会員がおります。いちばん若い子は9歳、そしていちばん上の方は97歳。実に90歳近くもの年の差があるんですね。それでも同じように船漕ぎを楽しんでいます。
初めは二艘だった船も、今では実際に動かせる船として七艘を所有しています。やはりそれだけ船があるからたくさんの人を集められるし、人が会すからこそ活気が生まれる。
退職された方はこれからの人生の楽しみに、現役で働いている方は束の間の休息に、そして女性や子どもにもぜひ積極的に参加していただきたいと思っています。
桜の時期には、大横川の満開の桜をくぐる「お江戸深川さくらまつり」も開催します。冬場は寒いけれど、鴨、鵜といった鳥が水辺にいたり、大きなボラが船に飛び込んできたりと、冬にしか見られない光景もたくさんあります。船は春夏秋冬、どの季節にも楽しめるのです。
川から東京を見られるという唯一の方法である、船。水の上で静かにゆったりと風を感じながら、いつもとは違う時間を楽しんでください。
和船友の会
昔ながらの情緒を残す街並みに江戸時代に開削された河川の整備が進む水彩都市・江東区で、横十間川親水公園を拠点に櫓・櫂による和船の操船技術、和船の維持管理方法の後進への継承、地域社会の活性化を目的として活動。桜や藤の花の季節には地域イベントで江戸和船を楽しんでもらう粋な団体。現在、会員は70名。新規会員も募集中。
和船友の会のイベント紹介文(年間を通じたもの)
- 1月4日 安全祈願祭
- 1月4日以降の最初の日曜日 初漕ぎ
- 3月末〜4月中旬 お江戸深川さくらまつり
- 4月下旬 亀戸ふじまつり
- 夏休み期間 子ども体験教室
- 9月下旬 水彩フェスティバル
- 12月28日(最終日曜日) 漕ぎ収め
※不明な点は和船友の会にお問合せ下さい。