ゲンジボタルの新生活
多摩動物公園 昆虫園飼育展示係 渡辺良平
4月は新学年や新生活など、多くの人にとって始まりの季節です。自然界でも植物が芽吹き、多くの生き物が活動を始めます。初夏の風物詩ゲンジボタルもこの時期、新生活を始めています。
光りながら宙を舞う成虫が有名ですが、成虫の寿命は1、2週間程度と非常に短く、一生の大半は幼虫で過ごしています。幼虫のすみかは川の中。川底で夏から翌年の春までのあいだ、カワニナなどの巻貝を食べながら、脱皮を繰り返して成長していきます。そして長らく過ごした水中での生活から一変、成虫になるため上陸し、地中で繭をつくってサナギとなるのが、ちょうど4月から5月のあいだなのです。
幼虫たちは雨が降る夜をねらって次々と上陸をしますが、本来黒くて目立たない姿の幼虫も、上陸が間近になると腹部の一部を光らせるようになり、夜でも簡単に観察ができます。目立ってしまって危険なように感じますが、実は体に毒をもっているため、周囲への警告をしていると考えられています。
幼虫の中には上手に獲物を捕まえられず、成長が遅れて上陸が間に合わないものがいます。そんなとき、ゲンジボタルには上陸を諦めて、ひきつづき水中ですごして翌春を待つ、モラトリアムのような性質があります。場合によってはさらに延長し、3年間幼虫で過ごすものもいます。無理せず焦らずチャンスを待つことができる仕組みに感心するとともに、ゆとりの持てる生き方がうらやましく感じます。