井の頭池だよりR6 3月

2024年3月7日(木) カイツブリの繁殖シーズンが始まります


かいぼり後、肉食性の大型外来魚がいなくなった井の頭池では、彼らに捕食されなくなった在来水生生物が回復しました。そして魚やエビを食物とする魚食性の水鳥が増えたり、子育てをするようになりました。
 
井の頭池で繁殖数が増えた代表的な水鳥であるカイツブリは、抽水植物群落などに浮巣を作り、潜水して魚やエビを食べる肉食性の水鳥です。
 
カイツブリの家族(2023年6月)

1回目のかいぼり直前の2年間は、井の頭池で繁殖しませんでした。外来魚が蔓延し、カイツブリの食物となる水生生物が乏しかったと考えられます。その後かいぼりを繰り返すごとに、繁殖するカイツブリのつがいが増加しました。
 
図.カイツブリ繁殖数の推移

出典:2003~2014年は、よみがえる!井の頭池!かいぼり報告会資料集「かいぼりで変わった水鳥の暮らし」より(井の頭かんさつ会 田中利秋氏の調査)。2015年は田中氏の継続調査の結果より。
※独り立ち数は、ふ化から1ヶ月後に生存していたヒナの数とした。
 
カイツブリの繁殖シーズンは一般的に4月から7月頃です。井の頭池では、3月中旬頃から求愛や巣造りが始まり、同じつがいが1シーズンで1~3回ほど子育てをします。食物が豊富なせいか、11月に子育てをした年もありました。
3回目のかいぼりから6年目を迎えた2023年は、カイツブリの確認つがい数は2022年と変わらず11つがいと多く、抱卵したつがいは10つがいと過去最多でした。一方、ふ化したヒナ数は27羽、独り立ちしたヒナ数は12羽と、過去最多だった2022年から大幅に減少しました。抱卵を確認しても、その後営巣放棄したり卵がなくなってしまう事例が多く確認されたためです。
成鳥の多さは、井の頭池に食物が豊富であることを示しているものと考えられます。一方、ヒナ数の減少は何を表しているのでしょうか。抱卵したものの卵がなくなってしまった事例を複数回観察しました。はっきりした要因はわかりませんが、つがいの相性や繁殖習熟度、もしくは同種間のなわばり争いや他種との種間関係も関係しているのかもしれません。
 
狛江橋浅場のガマ内で営巣したカイツブリ (2023年5月)

カイツブリの繁殖には、食物の豊富さと適切な営巣環境が必要です。
かいぼり後、在来水生生物が豊富に繁殖するようになった井の頭池では、ヒナの成長段階に合わせて、様々なサイズの食物(ヒナが小さいときはイトトンボ類やギンブナの稚魚、大きくなると大きなエビやオイカワなど)が給餌されています。
 
ヒナにギンブナの稚魚を与えるカイツブリ (2022年6月)

かいぼり以前は垂直護岸しかなかった井の頭池では、カイツブリはやむを得ず水面に垂れ下がった枝先に落ち葉などで巣造りをしていました。水面枝の巣は大雨による急激な水位上昇や強風で枝が大きく揺れることで壊れたり、サギやヘビが枝伝いにやってきて卵やヒナを狙うなど外敵に襲われる危険もあるようです。
 
アオダイショウに襲われた巣 卵を捕食され、営巣放棄した                     (2023年6月)[提供:井の頭かいぼり隊]

かいぼりを機に浅場を造成したところ、池底に眠っていた埋土種子からヒメガマやガマ、ヨシなどの抽水植物が生育しました。保全作業によって抽水植物群落を適切に管理・維持することで、抽水植物群落でのカイツブリの営巣数が増えてきました。
表.カイツブリの営巣環境(抱卵した巣)

カイツブリは、東京都(北多摩)では絶滅危惧II類に選定されています。都内では外来魚の蔓延や環境悪化により彼らの食物や繁殖環境が減少していますが、井の頭池では個体数も繁殖数も増加しています。今や井の頭池は、カイツブリの都内屈指の繁殖地と言えます。
 
これからカイツブリの繁殖シーズンが始まります。
昨年秋以降、カイツブリの滞在つがい数は減少していますが、繁殖シーズンを迎えて増えるかどうかが注目点です。
これからも、抽水植物群落の良好な管理を進めていきますので、園路近くで営巣しているカイツブリを見かけたら、長時間の滞在や近距離からの観察を避け、遠くから温かく見守っていただけますようお願いします。


 

お問い合わせ

建設局西部公園緑地事務所 工事課 0422-47-0192
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